いらない農地を手放す5つの方法|相続放棄と国庫帰属の現実も解説

相続した農地から5つの手放し方へ分岐する選択肢のイメージ 土地・農地の相続

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「親から農地を相続したけれど、自分は農業をしないし使い道もない。できれば手放したい」。こうしたご相談は年々増えています。ただ、多くの方が取り違えているのが相続放棄です。結論からお伝えすると、相続放棄で「農地だけ」を選んで手放すことはできません。預貯金や自宅も含めた全財産をまとめて放棄する手続きで、家庭裁判所への申述が必要です。期限も「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」と決まっています。この記事では、いらない農地を手放す5つの方法と、相続放棄・相続土地国庫帰属制度の違い、そして「お金を払って引き取ってもらう」前に確認したい順番をまとめました(2026年8月時点)。

相続した農地から5つの手放し方へ分岐する選択肢のイメージ

まず知ってほしい:農地だけを相続放棄することはできません

「いらないのは農地だけだから、農地だけ放棄したい」。現場でもよく聞くお話ですが、この考え方は制度の仕組みとかみ合っていません。取り違えたまま時間が過ぎると、選べる手段そのものが減ってしまいます。

相続放棄と相続土地国庫帰属制度の違いを比べるイメージ

相続放棄は「プラスもマイナスもまとめて手放す」手続き

相続放棄は、被相続人(亡くなった方)の財産を一切相続しないという意思表示です。預貯金や自宅といったプラスの財産も、借入金などのマイナスの財産も、まとめて対象になります。農地の評価額は低い一方で実家や預貯金の価値が大きいご家庭は多く、農地を手放したいという理由だけで放棄を選ぶと、失うもののほうが大きくなることがあります。制度そのものの流れは相続放棄したら家はどうなる?で解説していますので、あわせてご覧ください。

期限は「知った時から3ヶ月」、手続き先は家庭裁判所

相続放棄をするには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります(民法915条1項)。この3ヶ月を熟慮期間と呼びます。「亡くなった日から3ヶ月」と覚えている方が多いのですが、条文上の起算点は「自分が相続人になったと知った時」で、相続人が複数いれば別々に進みます。調査が終わらない事情があるときは、期間内に家庭裁判所へ伸長を申し立てる方法もあります。

放棄しても「保存義務」が残ることがある(民法940条)

見落とされやすいのが放棄した後の扱いです。2023年4月に施行された改正民法940条1項は、相続の放棄をした者が、放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならない、と定めています。改正前は「管理」義務とされ対象も広く読めましたが、改正により義務を負うのは「放棄の時に現に占有している人」に限られ、内容も現状維持の「保存」に整理されました。同居していて庭続きの畑を使っていた場合は放棄後も引き渡しまで義務が残り得ますが、遠方で一度も足を運んでいない農地なら現に占有しているとは言いにくいでしょう。

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3ヶ月の期限が迫っていて、手続きをまとめて任せたい場合の選択肢

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  • 料金の目安:基本料金は68万円(税込)からとされています(2026年8月時点)。安い金額ではありませんので、依頼する範囲と費用が見合うか確認したうえでご判断ください。
  • 自分でやる・個別に頼む選択肢との比較:相続放棄の申述だけなら家庭裁判所へ自分で申し立てる方法もあり、実費は数千円程度です。司法書士や弁護士に単発で頼むこともできます。手続きが一つだけなら、まとめて代行しないほうが費用を抑えられることが多い点は正直にお伝えします。
  • 申し込み後の流れ:フォームで申し込むと、後日担当者から電話またはメールで連絡が来ます。ヒアリングを受けたうえで正式に依頼するかを判断でき、無料相談の段階で断ることもできます。

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いらない農地を手放す5つの方法

ここからは取り得る手段を5つに整理します。並び順は手放しやすさではなく、検討すべき順序です。期限のあるもの、費用がかかるもの、お金になり得るものが混ざっているためです。

放置されて荒れた農地は引き取りの要件を満たさないことがあるイメージ

①相続放棄:確実性は高いが、代償も大きい

農地だけを選べない点は前章のとおりです。加えて、相続人全員が放棄すると農地は宙に浮いた状態になります。自動的に国のものになるわけではなく、利害関係人や検察官の申立てを受けて家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、清算を経てはじめて国庫に帰属します。申立てでは事案により数十万円程度の予納金を求められることもあり、放棄すれば翌日から一切無関係、という単純な話ではありません。

②相続土地国庫帰属制度:不要な土地だけを選んで申請できる

相続や遺贈で取得した土地を、要件を満たす場合に国へ引き取ってもらう制度で、令和5年(2023年)4月27日に始まりました(法務省)。相続放棄との違いは、不要な土地だけを選んで申請でき、期限もないことです。制度開始前に相続した土地も対象になります。

費用は、審査手数料が土地一筆あたり14,000円、承認された場合の負担金が原則20万円です。田・畑は面積にかかわらず20万円が原則ですが、(ア)都市計画法の市街化区域または用途地域が定められた地域、(イ)農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域、(ウ)土地改良事業などが実施された区域内の田・畑は、面積に応じて算定されます(法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」・2026年8月時点)。市街地周辺の農地ほど20万円で収まらない可能性がある、と考えておくとよいでしょう。

ただし、申請すれば通る制度ではありません。建物がある土地、担保権や使用収益権が設定された土地、他人の利用が予定されている土地、土壌汚染がある土地、境界が明らかでない土地は申請段階で却下されます。さらに一定の勾配・高さの崖がある土地、管理や処分を妨げる工作物・樹木が地上にある土地、除去が必要なものが地下にある土地なども承認されません。長く放置されて荒れた農地は、残された資材や伸びた立木が理由で不承認になり得るため、現地の状態確認が先です。

③農地のまま売る・転用して売る

「いらない」と思っている農地に買い手がつくことは珍しくありません。売却には、農地のまま農家・農業法人へ売る方法(農地法3条の許可)と、宅地などへ農地転用して売る方法(同5条)の2ルートがあります。筆者が多摩地域で扱った市街化区域内の農地では、買い手は建売業者が中心でした。地域や区域区分で事情は変わりますが、「農地だから売れない」と決めつける必要はありません。一方、市街化調整区域や農用地区域(青地)の農地は転用が原則として難しく、買い手は限られます。2ルートの見分け方は相続した農地を売る2つの方法にまとめています。

お金を払って手放す方法を検討する前に、「売れる可能性がある土地なのか」を確かめておくと、判断の順番を間違えずに済みます。数分で目安を確認できますので、材料の一つとしてご覧ください。

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④農地バンク(農地中間管理機構)に貸す

所有権は残したまま耕作の負担から離れる方法として、農地中間管理機構(通称・農地バンク)への貸付があります。都道府県知事が指定した公的な組織が農地を借り受け、地域の担い手へ貸し付ける仕組みです(農林水産省)。ただし借り手が見つからなければ貸付は成立しません。区画が小さい、機械が入りにくい、傾斜地といった農地は受け手が付きにくく、預ければ確実に片づくとは限らない点は正直にお伝えします。

⑤自治体・隣接農家への打診

寄付を受けてもらえないかと考える方も多いのですが、自治体が個人の土地の寄付を受けるかは自治体ごとの判断です。管理費用がかかるうえ固定資産税の収入がなくなるため、公共の用途に使う予定がなければ受け付けていないところが多いのが実情です。扱いは地域で異なるので、担当課に確認する価値はあります。あわせて現実的なのが、隣接農家への打診です。隣地とまとまれば機械が入りやすくなるといった利点があり、農業委員会が担い手につないでくれる場合もあります。

相続放棄と国庫帰属制度、どちらを検討すべきか

混同されやすい2つの違いを表に整理します(2026年時点の制度にもとづく一般的な整理です)。

期限のある手続きから順に確認して農地の出口を決めるイメージ
相続放棄 相続土地国庫帰属制度
対象 全財産(農地だけは選べない) 相続・遺贈で得た土地を筆ごとに選べる
期限 相続の開始を知った時から3ヶ月 期限なし(制度開始前の相続も対象)
窓口 家庭裁判所へ申述 土地を管轄する法務局へ承認申請
費用の目安 実費は数千円程度+専門家報酬 審査手数料一筆14,000円+負担金(田畑は原則20万円)
他の財産 自宅・預貯金も相続できない そのまま相続できる
通らない場合 期限内で要件を満たせば受理が一般的 却下要件・不承認要件に当たると不可

判断の目安と、動く順番

借入金など明らかなマイナスの財産があり、遺産全体で見て相続しないほうがよい場合は相続放棄が、預貯金や実家は相続したいが農地だけ不要という場合は国庫帰属制度や売却が、検討対象になります。注意したいのは、相続放棄には3ヶ月の期限がある一方、国庫帰属制度や売却には期限がないという非対称性です。迷っているうちに放棄の選択肢だけが消えていた、という事態は避けたいところ。期限のある相続放棄から先に専門家へ相談し、残りをゆっくり比べる順番が現実的です。選択肢の全体像は農地を相続したらどうする?で整理しています。

「タダでも手放したい」と思ったときに確認する順番

お金を払って手放す前に、3つ確かめる

(1)売れる可能性があるか、(2)国庫帰属制度の要件に当てはまりそうか、(3)貸す・隣接農家に引き取ってもらう道はないか。この3つを先に確認することをおすすめします。理由は単純で、売れる土地でも、引き取りを依頼すれば同じように費用を請求されるからです。有償の引き取りサービスは数十万円から百万円単位になることもあります。3つを確かめたうえで難しいと分かったなら、費用を払う判断にも納得がいくはずです。

「どんな農地でも買い取ります」という誘いには慎重に

国民生活センターは、「あなたの土地を高値で買い取る」といった勧誘をきっかけに、測量費・手続き費用などの名目で金銭を請求される「原野商法の二次被害」について繰り返し注意喚起しています。相談者は70代・80代が多く、2024年度の1件あたり平均支払額は約258万円と報告されています。農地や山林は市場価格が読みにくいぶん、こうした話が入り込みやすい分野です。先にお金を払う話が出てきたら、その場で契約せず家族や第三者に相談してください(消費者ホットライン188)。

売れないと決めつける前に、現状を確かめる

相続した土地は、調べてみると評価が変わることがよくあります。接道の状況、区域区分、周辺の宅地化の進み具合、道路との高低差。この組み合わせで買い手の付きやすさは変わります。水田は地盤がぬかるみやすく、宅地化を前提とする買い手からは畑より扱いにくいと見られがちです。田舎の家や土地が売れないときの考え方は田舎の家が売れないときの処分方法もあわせてご覧ください。

相続した農地や土地の出口については、相続した土地の売却・整理を相談することもできます。多摩地域を中心に、相続した土地の売却相談を受け付けています。地域・物件の状況により対応できない場合があります。

まとめ:期限のある手続きから順に確認しましょう

最後に、この記事の要点を整理します。

  • 相続放棄で「農地だけ」を選んで手放すことはできない。全財産が対象で、期限は相続の開始を知った時から3ヶ月、窓口は家庭裁判所
  • 改正民法940条(2023年4月施行)により、放棄後の保存義務を負うのは「放棄の時に現に占有していた人」に限られる
  • 相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日開始)なら不要な土地だけを申請できる。審査手数料は一筆14,000円、田畑の負担金は原則20万円。市街化区域・農用地区域・土地改良事業区域内の田畑は面積に応じ算定(法務省・2026年8月時点)
  • 手放す方法は①相続放棄②国庫帰属③売る④農地バンクへ貸す⑤自治体・隣接農家への打診の5つ。荒れた農地は不承認になり得るため現地確認が先
  • 費用を払って引き取ってもらう前に、売れる可能性・国庫帰属・貸す道の3つを確認する。「高値で買い取る」勧誘からの二次被害にも注意

農地の話は、期限のあるものとないものが入り混じっているのが厄介なところです。まず相続放棄の3ヶ月だけを先に押さえ、そのうえで売却・国庫帰属・貸付をゆっくり比べる。この順番で進めてみてください。

手放す方法を決める前に、その農地に売れる可能性があるかを知っておくと、話の進め方が変わります。無料で目安を確認できますので、ご家族で話し合う前の材料としてお使いください。

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※本記事は2026年8月時点の公開情報にもとづく一般的な説明であり、個別の事案について結論を保証するものではありません。国庫帰属制度の要件・負担金は法務省および管轄の法務局、農地の貸付や担い手は市区町村の農業委員会、税務は税理士や税務署、登記や相続放棄の手続きは司法書士・弁護士へご確認ください。

この記事を書いた人

鈴木 悠平宅地建物取引士・2級FP技能士)

銀行系不動産会社で13年、不動産エージェントとして2年、通算15年以上売買仲介に携わり、新潟・八王子/府中・池袋など特性の異なるエリアで、売主・買主双方の立場から半期100件以上のご相談に対応してきました。「知らないだけで損をしてしまう」ケースを現場で数多く見てきた経験から、不動産売買で損をする人を一人でも減らすことを目指し、当サイト「イエノミカタ」を運営しています。

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