「実家の名義は認知症の親のままだけれど、施設費用のために売却したい」——そんな状況に立たされて、どこから手をつければいいのか分からず戸惑っていませんか。結論からお伝えすると、親御さんの意思能力の状態によっては、通常の売買契約がそのまま結べない場合があり、成年後見制度という仕組みを使う必要が出てくることがあります。この記事では、意思能力と契約の関係という大原則から、法定後見・任意後見の違い、居住用不動産の売却で必ず押さえておきたい家庭裁判所の許可の話、後見制度のデメリット、そして「認知症になる前」にできる備えまで、2026年7月時点の一般的な情報として順番に整理します。ご自身やご家族のケースに当てはまるかどうかは、必ず専門家に確認しながら読み進めてください。

大原則:意思能力を欠くと売買契約が無効になり得る
まず押さえておきたいのが、不動産の売買契約は「契約の内容を理解し、それによってどんな結果が生じるかを判断できる能力(意思能力)」があることを前提にしている、という点です。この意思能力が欠けた状態で結ばれた契約は、法律上、無効と扱われる可能性があります。

意思能力とは何か
意思能力とは、自分の行為の意味や結果を理解し、判断できる能力のことを指すとされています。認知症といっても症状の程度は人によって大きく異なり、「認知症の診断=意思能力なし」と単純に決まるわけではありません。ただし、症状が進み、契約内容の理解や自分の財産への影響を判断することが難しい状態になっていると考えられる場合は、意思能力が欠けていると評価される可能性があります。
意思能力を欠いた状態での契約はなぜ問題になるのか
意思能力を欠いた状態で結ばれた契約は、後になって無効を主張される可能性があります。実務上、不動産会社や司法書士は、売主の受け答えの様子や普段の生活状況などから意思能力について慎重に確認することが一般的です。少しでも懸念があると判断されれば、契約や決済の手続きを進められないことがあります。「急いで売りたいのに、いざ手続きに入ったら止められてしまった」というのは、実務でも起こり得るケースです。
「まだ大丈夫」と感じる段階でも早めの確認を
意思能力の有無は、医師の診断や本人とのやり取りの様子から総合的に判断されるものであり、家族の目には「まだ受け答えできている」と映る場合でも、専門家の視点では判断が分かれることがあります。売却を具体的に検討し始めた時点で、早めに不動産会社や司法書士に相談し、必要であれば医師の診断も含めて状況を整理しておくと、後の手続きがスムーズになりやすいといえます。
※相続・判断能力にまつわる不動産の手続きは、個別の事情によって進め方が大きく変わります。本記事は一般的な説明にとどめているため、実際の手続きは司法書士や弁護士、家庭裁判所に確認しながら進めることをおすすめします。
成年後見制度の基本——法定後見と任意後見の違い
親御さんの意思能力が十分でないと判断された場合に選択肢となるのが、成年後見制度です。この制度には大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2種類があり、認知症が進んでからの実家売却の場面では、法定後見を使うケースが多いとされています。

法定後見制度とは
法定後見は、本人の判断能力がすでに低下したあとに、家庭裁判所へ申立てをして後見人等を選んでもらう制度です。判断能力の程度に応じて「後見・保佐・補助」の3類型に分かれており、後見人等には家族が選ばれることもあれば、司法書士や弁護士といった専門職が選ばれることもあります。誰が選ばれるかは家庭裁判所の判断によるため、あらかじめ「必ず家族が後見人になれる」とは言い切れない点に注意が必要です。
任意後見制度とは
一方の任意後見は、本人がまだ判断能力を十分に持っている段階で、将来に備えてあらかじめ後見人になってほしい人と契約を結んでおく制度です。実際に判断能力が低下したときに、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで契約の効力が生じる仕組みとされています。この制度は「判断能力が低下する前」に準備しておくことが前提になるため、すでに認知症が進んでいる段階では利用できません。
どちらを使うかは本人の状態で決まる
すでに親御さんの判断能力が大きく低下していて、事前の任意後見契約もない場合は、法定後見を利用する流れになるのが一般的です。逆にいえば、任意後見はまだ元気なうち、あるいは判断能力に不安を感じ始めた早い段階でしか選べない制度です。この違いは、後述する「認知症になる前の備え」を考えるうえでも重要なポイントになります。手続きの詳細や必要書類は個別の事情で変わるため、家庭裁判所や司法書士・弁護士に確認しながら進めることをおすすめします。
実家の今後をどう考えるかで悩んだときは、施設に入った親の家をどう扱うかを整理した親が施設に入った実家をどうするかの記事もあわせてご覧いただくと、全体の流れがつかみやすくなります。
居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要
成年後見制度を利用して実家を売却する場合に、最も重要なポイントがここです。売却しようとしている実家が本人(親御さん)の「居住用不動産」にあたる場合、成年後見人が売却の手続きを進めるには、家庭裁判所の許可(居住用不動産処分許可)を得る必要があるとされています。

なぜ家庭裁判所の許可が必要なのか
居住用不動産は、本人の生活の基盤であり、財産の中でも特に重要な位置づけとされています。後見人が本人に代わって売却の判断をするとはいえ、住まいを手放すという重大な決定を後見人の一存だけで進められるようにしてしまうと、本人の利益が損なわれるおそれがあります。そのため、後見人が居住用不動産を処分(売却・賃貸・抵当権設定など)しようとする際は、事前に家庭裁判所へ申立てを行い、許可を得ることが求められる仕組みになっています。
「居住用不動産」の範囲と許可の流れ
ここでいう居住用不動産には、本人が現に住んでいる家だけでなく、施設に入所する前まで住んでいた家や、将来的に本人が生活の場として利用する可能性がある不動産も含まれると考えられる場合があります。実家が空き家になっていても、本人がかつて住んでいた家であれば居住用不動産として扱われることがあるため、「もう住んでいないから対象外」と自己判断せず、司法書士や家庭裁判所に確認することが欠かせません。許可の申立てでは、売却の必要性(施設費用や生活費の捻出など)や、売却条件が本人にとって不利益でないかといった点が審査されるとされています。許可が下りるまでには一定の期間がかかることもあるため、資金が必要な時期から逆算して早めに動き出すことが大切です。
許可なく売却するとどうなるか
家庭裁判所の許可を得ずに居住用不動産を売却する契約を結んでしまうと、その契約は無効になるとされています。買主にとっても大きなリスクとなるため、実務では、居住用不動産にあたる可能性がある物件の売買では、不動産会社や司法書士が後見制度の利用状況や許可の有無を必ず確認するのが一般的です。「早く現金化したいから」と手続きを飛ばそうとすると、かえって取引全体が止まってしまう可能性があるため、正規の手順を踏むことが結果的に近道になります。
※居住用不動産にあたるかどうかの判断や、家庭裁判所への許可申立ての具体的な進め方は、物件やご家族の状況によって異なります。2026年7月時点の一般的な説明にとどめていますので、実際の手続きは司法書士・弁護士や家庭裁判所、地域包括支援センターに相談しながら進めることをおすすめします。
手続きの見通しが立ったら、実家をどのように処分していくかという全体の流れも早めに把握しておくと安心です。処分の進め方全般は実家の処分は何から始める?最初の3ステップと5つの選択肢の記事で整理しています。あわせて、成年後見や相続に関する用語でわからないものが出てきたときは、不動産用語集で確認しながら読み進めると理解しやすくなります。
実家の売却を具体的に検討し始めた段階では、家庭裁判所への申立てと並行して、実家に今どのくらいの資産価値があるのかという目安を知っておくと、後見人としての判断材料や、家庭裁判所への説明資料としても役立ちやすくなります。
実家の資産価値がどのくらいか、まずは目安だけでも知っておきたいという方は、当サイトの無料診断をご活用ください。物件情報を入力するだけで、大まかな価値の目安を確認できます。
成年後見制度のデメリットと「なる前」にできる備え
成年後見制度は本人の財産を守るための重要な仕組みですが、良い面ばかりではありません。実家の売却を急ぐご家族にとっては負担に感じる部分もあるため、利用前に知っておきたいデメリットと、判断能力が十分なうちにできる備えをあわせて整理します。
費用がかかり、一度始めると途中でやめられない
後見開始の申立てには、収入印紙や登記手数料、医師の鑑定費用(必要な場合)などの実費がかかります。また、後見人に司法書士や弁護士といった専門職が選ばれた場合は、家庭裁判所が定める基準にもとづいて、本人の財産から継続的に報酬が支払われる仕組みになっているとされています。報酬の目安は本人の財産状況などによって幅があるため、具体的な金額については家庭裁判所や専門家に確認するのが確実です。さらに、法定後見は「実家の売却が終わったから」という理由だけで自由にやめられる制度ではないとされています。後見は本人の判断能力が回復しない限り、原則として本人が亡くなるまで続く仕組みで、「不動産の売却だけお願いしたい」という限定的な利用はできない点も事前に理解しておく必要があります。
後見人の判断で自由に財産を動かせるわけではない
後見人が選ばれたからといって、本人の財産を家族の希望どおりに動かせるわけではありません。後見人は本人の利益を最優先に行動する義務を負っており、家庭裁判所への定期的な報告も必要とされています。「実家を売って得たお金を家族の生活費に使いたい」といった希望がある場合、それが本人の利益に沿うかどうかは別途慎重な判断が必要になり、家族の思うようにいかないと感じる場面が出てくることもあります。手続き全体にも一定の期間がかかるため、資金が必要な時期からは余裕を持って早めに動き出すことが欠かせません。
「なる前」の備え——任意後見制度
これらのデメリットを踏まえると、判断能力が十分なうちに備えておく選択肢の価値が見えてきます。ひとつが前述の任意後見制度です。信頼できる家族などをあらかじめ後見人候補として契約しておくことで、判断能力が低下したあとも、本人の意向に沿った形で財産管理を任せやすくなるとされています。契約は判断能力があるうちにしか結べないため、「まだ早い」と感じる時期こそ検討のタイミングといえます。
「なる前」の備え——家族信託という選択肢
もうひとつの選択肢としてよく挙がるのが「家族信託」です。家族信託は、本人が元気なうちに、不動産などの財産の管理・処分を信頼できる家族に託しておく仕組みで、成年後見制度に比べて財産の活用に柔軟性を持たせやすいといわれています。ただし、契約設計の難しさや専門家への依頼費用がかかるといった注意点もあり、誰にでも一律に向いているとは限りません。任意後見・家族信託のどちらが合っているかは家族構成や資産状況によって異なるため、制度に詳しい司法書士や弁護士に早めに相談し、家族で方針を話し合っておくことが、将来の選択肢を狭めないための備えになります。
まとめ:判断の分かれ道を知り、早めに専門家へ相談を
最後に、この記事の要点を整理します。
- 不動産の売買契約には意思能力が必要で、これを欠いた状態での契約は無効になり得る
- 成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」があり、認知症が進んでからは法定後見を使う流れになるのが一般的
- 実家が居住用不動産にあたる場合、成年後見人が売却するには家庭裁判所の許可が必要になる
- 後見制度には費用がかかる・途中でやめられないといったデメリットもあるため、良い面と負担の両方を理解しておく
- 判断能力が十分なうちなら、任意後見や家族信託という備えも選択肢になる
2026年7月時点でも制度の骨格は大きくは変わっていませんが、運用や費用の実態は個別の事情や家庭裁判所の判断によって変わり得ます。この記事はあくまで一般的な情報の整理であり、実際にどう進めるべきかは、司法書士・弁護士、家庭裁判所、そしてお住まいの地域包括支援センターに早めに相談しながら判断してください。一人で抱え込まず、複数の窓口に相談してみることで、見えていなかった選択肢が見つかることもあります。
相談に動く前に、まずは実家に今どのくらいの資産価値があるのか目安を知っておくと、家族での話し合いや専門家への相談がスムーズに進みやすくなります。無料で数分あれば確認できるので、最初の一歩としてぜひ活用してみてください。


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