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結論:取得費が分からないと譲渡所得税の負担が大きくなる仕組み
相続した実家や、親が何十年も前に購入した古い家を売ろうとしたとき、「当時の売買契約書が見当たらず、いくらで買ったのか分からない」というケースは珍しくありません。結論からお伝えすると、取得費が分からないままだと、税務上は売却価格のわずか5%相当額しか取得費として認められない「概算取得費」というルールが使われ、譲渡所得税の負担が実額が分かる場合より大きく増えてしまうことがあります。まずは、なぜそうなるのか、譲渡所得の計算の仕組みから確認していきましょう。

譲渡所得はどのように計算されるか
不動産を売って利益が出た場合にかかる税金(譲渡所得税・住民税)は、売却価格そのものではなく「譲渡所得」という利益部分に対して課税されます。譲渡所得は、次の式で計算します。
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除
ここでいう「取得費」とは、その不動産を購入したときにかかった代金や仲介手数料、登記費用などの合計額(建物は減価償却後の金額)を指します。「譲渡費用」は売却時にかかった仲介手数料や印紙代などです。この式からも分かるとおり、取得費が大きいほど譲渡所得(利益とみなされる部分)は小さくなり、税額も抑えられます。逆に、取得費が小さければ小さいほど、譲渡所得は大きく計算され、税額も増えることになります。譲渡所得税の税率は所有期間によって異なり、一般的に所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」で20.315%程度、5年以下の「短期譲渡所得」で39.63%程度とされています(2026年7月時点)。税額そのもののより詳しい考え方は譲渡所得税に備えるでも解説していますので、あわせてご確認ください。
取得費が分からないとどうなるか
問題は、この式の「取得費」が分からない場合です。相続で譲り受けた家や、親世代が数十年前に購入した家では、当時の売買契約書や領収書が見つからないことが少なくありません。取得費を証明する書類が一切ない場合、税務上は実額の取得費の代わりに、売却価格のわずか5%相当額を取得費とみなす「概算取得費」という考え方が使われます。次の章で、この概算取得費のルールを正確に見ていきます。
概算取得費「売却価格の5%」ルールを正確に理解する
取得費が分からないときに使われる「売却価格の5%」というルールは、国税庁タックスアンサーNo.3258「取得費が分からないとき」で示されているものです(2026年7月時点)。ここでは、その内容と、実際の金額感を具体例で確認します。

国税庁タックスアンサーNo.3258の内容
国税庁の説明によれば、土地や建物を売った際の取得費が分からない場合や、先祖伝来の土地建物などで購入価格が不明な場合には、売却価格の5%相当額を取得費とすることができるとされています。これが「概算取得費」と呼ばれるものです。取得費が全く分からなくても譲渡所得の計算自体はできる、という意味では救済的な仕組みですが、後述するとおり、実額の取得費より小さくなりやすい点には注意が必要です。
具体例で見る概算取得費の目安
具体的な数字で見てみましょう。あくまで目安の試算ですが、実家を3,000万円で売却し、取得費が分からないため概算取得費を使う場合、取得費は3,000万円×5%=150万円という計算になります。かりに譲渡費用(仲介手数料など)を目安として100万円とすると、譲渡所得は3,000万円-(150万円+100万円)=2,750万円です。一方、もし当時の実額取得費が分かる資料が見つかり、たとえば800万円だったと確認できたとすると、譲渡所得は3,000万円-(800万円+100万円)=2,100万円にとどまります。この例では、取得費が分かるかどうかだけで、譲渡所得の計算上650万円もの差が生じる計算になります。長期譲渡所得の税率(一般的に20.315%程度)で単純計算すると、税額の差はおよそ130万円前後にもなり得ます。もちろんこれは特別控除等を考慮しない簡略化した目安の試算であり、実際の税額は個々の状況によって異なりますので、正確な金額は税理士にご確認ください。
実額取得費が5%を下回る場合も概算取得費を選べる
なお、実際の取得費が判明していても、その金額が売却価格の5%相当額を下回る場合には、より有利な売却価格の5%相当額を取得費として選ぶこともできるとされています。つまり、概算取得費は「取得費が全く分からないときの救済措置」であると同時に、「実額が少額だった場合の下限保証」としても機能する仕組みです。逆に言えば、実額の取得費が5%相当額を上回ることが資料で示せるのであれば、実額を使ったほうが税負担を抑えられる可能性が高いということになります。次の章では、契約書がなくても実額を示せる可能性のある資料を見ていきます。
取得費が分からないと、想定より税負担が大きくなるかもしれません。売却を具体的に検討する前に、まずは実家がいまどのくらいの価値なのか、目安を無料で確認しておくと判断がしやすくなります。
実額取得費を示せる可能性がある資料と、その限界
「契約書がないから概算取得費しかない」とあきらめる前に、実額の取得費を裏付けられる可能性のある資料がないか、確認してみる価値があります。ただし、これらの資料で実額取得費が認められるかどうかは、最終的には税務署の個別判断によるという点を押さえておいてください。

通帳の出金記録や住宅ローン関連の書類
購入当時の預金通帳が残っていれば、購入代金に相当する金額の出金記録が、取得費を裏付ける資料の一つになる可能性があります。また、住宅ローンを利用して購入していた場合は、住宅ローンの契約書や、登記簿に記載されている抵当権設定額(借入額の目安が分かることがあります)も参考資料になり得ます。抵当権設定額はそのまま購入価格ではありませんが、おおよその取得価格を推測する手がかりの一つとして扱われることがあります。
分譲時のパンフレットや仲介会社の記録
マンションや分譲地を購入していた場合、当時の分譲パンフレットに販売価格の記載が残っていることがあります。また、購入時に不動産会社を通じて取引していたのであれば、その仲介会社に当時の取引記録が保管されていないか、問い合わせてみるのも一つの方法です。長期間が経過していると記録が残っていないことも多いですが、可能性がゼロとは限りません。
資料が認められるかは税務署の個別判断
ここで紹介した資料は、あくまで実額取得費を示すための「手がかり」であり、これらを提出すればそのまま実額として認められるとは限りません。どの資料をどこまで取得費の根拠として認めるかは、税務署が個別の事情を踏まえて判断することになります。手元にある資料を整理したうえで、確定申告の前に税理士に相談し、実額として主張できる可能性があるかどうかを確認することをおすすめします。
市街地価格指数などによる推計にはリスクがある
取得費を推計する方法として、国が公表している市街地価格指数などの統計データを使って、購入当時の地価から逆算する手法が紹介されることがあります。しかし、こうした統計的な推計による取得費は、税務調査で否認されるリスクがあるとされています。実額の裏付け資料が乏しいまま推計値だけで申告してしまうと、後になって修正申告や追徴課税を求められる可能性も否定できません。自己判断でこうした推計方法を用いるのではなく、事前に税理士へ相談し、その方法が自分のケースで採用できるかどうかを確認することを強くおすすめします。
取得費以外で譲渡所得税を抑えられる可能性がある制度
取得費の確認と並行して、取得費以外の切り口で譲渡所得税の負担を抑えられる制度がないかも確認しておきたいところです。代表的なものとして、次の2つが挙げられます。いずれも適用には要件があるため、ここでは概要にとどめ、詳細は専門家にご確認ください。

相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
相続や遺贈によって取得した不動産を売却し、その際に相続税を納めていた場合には、納めた相続税額のうち一定額を取得費に加算できる「取得費加算の特例」という制度があります(国税庁タックスアンサーNo.3267)。適用には、相続税が課税されていること、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却していることなどの要件があります。相続税を納めていない場合はそもそも使えない制度である点にも注意が必要です。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除
相続や遺贈で取得した、亡くなった方が一人で住んでいた家屋やその敷地を売却する場合には、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円(相続人が3人以上の場合は最高2,000万円)を控除できる特例もあります(国税庁タックスアンサーNo.3306)。昭和56年5月31日以前に建築された家屋であることや、区分所有登記の建物でないことなど、細かな要件が定められています。この特例について、より詳しくは相続空き家の3,000万円特別控除でも解説していますので、あわせてご覧ください。
制度の併用や適用可否は個別に異なる
取得費加算の特例と相続空き家の3,000万円特別控除は、要件を満たせば併用できる場合もありますが、どちらも細かい適用要件があり、ご自身のケースに当てはまるかどうかは個別に判断する必要があります。「自分は使えるはず」と自己判断で確定申告を進めてしまうと、後になって修正が必要になることもあるため、税理士に相談しながら進めることをおすすめします。確定申告そのものの流れや必要書類については、家を売却したときの確定申告のやり方で詳しく解説しています。なお、「取得費」や「譲渡所得」といった税務用語の意味を確認したい場合は、不動産用語集もあわせてご活用ください。
※本記事の税制に関する内容は2026年7月時点の一般的な情報です。取得費の算定方法や特例の適用可否は個々の状況によって異なり、最終的な判断には専門知識が必要です。正確な税額や特例の適用可否については、税理士または税務署にご確認ください。
まとめ:取得費が分からないときこそ、早めの資産価値把握と専門家相談を
最後に、この記事の要点を整理します。
- 取得費が分からない場合、譲渡所得税の計算では売却価格の5%相当額を取得費とする「概算取得費」が使われ、実額が分かる場合より税負担が大きくなりやすい(2026年7月時点、国税庁タックスアンサーNo.3258)
- 実額取得費が売却価格の5%を下回る場合も概算取得費(5%)を選べる一方、実額の方が高いと示せる資料があるなら、それを使ったほうが税負担を抑えられる可能性がある
- 通帳の出金記録や住宅ローン関連書類、分譲時のパンフレットなどが実額取得費の手がかりになることがあるが、認められるかどうかは税務署の個別判断による
- 市街地価格指数などを使った推計は税務上否認されるリスクがあるとされており、自己判断は避け税理士へ相談するのが安心
- 取得費加算の特例や相続空き家の3,000万円特別控除など、取得費以外で税負担を抑えられる可能性がある制度もあるが、いずれも要件があるため個別確認が必要
取得費が分からないという状況は珍しいことではありません。だからこそ、資料を探す・専門家に相談するという行動を早めに起こすことが、納める税金を大きく左右することがあります。本記事の内容は2026年7月時点の一般的な情報であり、実際の取得費の算定や特例の適用可否については、税理士・税務署にご確認ください。
取得費や税金のことで頭がいっぱいになる前に、まずは実家がいまどのくらいの価値なのか、目安を無料で確認してみませんか。売却するかどうかを判断する材料になります。
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