「親が残した農地を相続したけれど、自分は農業をしない。できれば売ってしまいたい」。調べ始めると農地法・許可・届出・転用といった言葉が次々に出てきて、手が止まってしまう方が多いようです。結論からお伝えすると、相続した農地を売る方法は「農地のまま売る(農地法3条の許可)」か「転用して売る(農地法5条の許可)」の2つに整理できます。どちらが現実的かは、その農地が市街化区域にあるのか、市街化調整区域や農業振興地域の農用地区域にあるのかで、かなりの部分が決まります。この記事では2つのルートの違いを表で比べたうえで、ご自身の農地がどちら側かを見分ける順番と、売却の現場でつまずきやすい点を整理します(制度の内容は2026年8月時点のものです)。

相続した農地を売る方法は2つ|まず全体像をつかむ
農地は、宅地と同じ感覚で自由に売買できる土地ではありません。農地法によって、誰が取得できるのか、何に使えるのかが制限されているためです。そのため、売り方も大きく次の2つに絞られます。

- ①農地のまま売る……買った人も農地として使い続ける。原則として農業委員会の許可(農地法3条)が必要
- ②転用して売る……買った人が宅地や事業用地などに変えて使う。原則として都道府県知事等の許可(農地法5条)が必要
農地法は「3条=農地のままの権利移動」「4条=所有者が自分で転用する場合」「5条=転用を目的とした権利移動」と整理できます。相続した農地を第三者へ売る場面で関係するのは、①なら3条、②なら5条です(出典:農林水産省「農地転用許可制度について」)。
2つのルートの違いを比べる
| 項目 | ①農地のまま売る | ②転用して売る |
|---|---|---|
| 必要な手続き | 農地法3条の許可 | 農地法5条の許可(市街化区域内は届出) |
| 許可・届出の相手 | 農業委員会 | 都道府県知事または指定市町村長(届出の場合は農業委員会) |
| 主な買い手 | 農家・農業法人など農業を続ける人 | 建売事業者・事業者・個人など宅地や事業用地として使う人 |
| 価格の水準 | 周辺の宅地相場より大幅に低くなりやすい | 立地次第だが、宅地見込みの価格に近づきやすい |
| 期間の目安 | 買い手探しに時間がかかることが多い | 許可の手続きだけで数か月。区域によっては認められない |
買い手も、許可を出す役所も、価格の水準も大きく異なります。最初に決めるべきなのは価格でも不動産会社でもなく、自分の農地がどちらのルートに乗せられるのかです。ここを飛ばすと、査定を依頼しても話が進まないまま時間が過ぎがちです。
相続しただけなら「許可」は不要、ただし「届出」は必要
混同されやすい点を整理します。相続による農地の取得に、農地法3条の許可は必要ありません。当事者の合意で権利が移るものではないためです。そのかわり、農地法3条の3にもとづく届出を農業委員会に行う必要があります。届出をしないまま何年も経っているケースも見かけますが、法律上は必要な手続きです。相続直後にやることの全体像は農地を相続したらどうする?農業をしない人の手続きと5つの選択肢にまとめています。
①農地のまま売る(農地法3条の許可)
買い手は「農業を続ける人」に限られる
農地のまま売る場合、買い手は農家や農業法人など、その農地で実際に農業を営む人に限られます。3条の許可では、取得した農地のすべてを効率的に利用して耕作すること、必要な農作業に常時従事することなどが審査されます。買い手の候補は隣接する農家や農業法人、新たに就農する人などに絞られ、母数がそもそも小さいのが実情です。

2023年4月に「下限面積要件」は廃止された
以前は、3条の許可を受ける条件として「権利を取得したあとの経営面積が原則として都府県で50アール、北海道で2ヘクタール以上であること」という下限面積要件がありました。この要件は2023年(令和5年)4月1日施行の改正農地法で廃止されています(出典:農林水産省「農地制度」)。小さな面積からでも農業を始められるようにする改正で、小規模な農地の買い手が広がる可能性はあります。ただし耕作に関する要件がなくなったわけではなく、「誰でも買える」という話ではありません。
価格は宅地の相場より大幅に低くなりやすい
農地のまま売る場合の価格は、周辺の宅地の相場と比べて大幅に低くなるのが一般的です。農地としての収益力をもとに値付けされるためで、同じ地域の宅地の何分の一という水準になることも珍しくありません。金額は地域や区画の条件で大きく変わるため一律の目安はお示しできませんが、宅地並みの価格を期待すると話が進みにくい点は、先に知っておくと判断しやすくなります。
②転用して売る(農地法5条の許可)|自分の農地がどちら側かを判定する
もう一つが、宅地や事業用地への転用を前提に売る方法です。買い手の幅が広がり価格も上がりやすい一方で、そもそも転用が認められる農地なのかという関門があります。以下は2026年時点の制度にもとづく整理です。次の順番で確認すると、ご自身の農地の立ち位置が見えてきます。

ステップ1:市街化区域内なら「許可」ではなく「届出」
都市計画法の市街化区域内にある農地は、あらかじめ農業委員会へ届け出れば、5条の許可を受けなくても転用できます(出典:農林水産省「農地転用許可制度について」)。市街化区域は、おおむね10年以内に優先的に市街化を図る区域とされ、農地を宅地に変えていくことが前提になっているためです。市街化区域かどうかは、自治体の都市計画課の窓口や、多くの自治体が公開している都市計画情報のウェブサイトで確認できます。
ステップ2:農用地区域(青地)に入っていないかを確認する
市街化区域でない場合、次に確認したいのが農業振興地域の農用地区域に入っていないかどうかです。通称「青地」と呼ばれ、ここに指定された農地は、農用地利用計画で定められた用途以外に使うことが認められていません(出典:農林水産省「農業振興地域制度の概要」)。転用するには、まず農用地区域から外す手続き(農振除外)が必要です。代替すべき土地がないこと、周辺の農地の効率的な利用に支障がないこと、農業基盤整備事業の完了後8年を経過していることなど複数の要件をすべて満たす必要があり、青地の農地は転用までに年単位の時間がかかると考えておくほうが現実的です。
ステップ3:それ以外は「立地基準」で判断される
市街化区域でも青地でもない農地は、農地の区分(甲種農地・第1種農地・第2種農地・第3種農地)ごとの立地基準にもとづいて判断されます。おおまかにいえば、生産性の高いまとまった農地ほど転用は認められにくく、市街地の中にある農地や、市街地に近く公共施設が整った区域の農地ほど認められやすい仕組みです。市街化調整区域にある農地は制約が重なるため、転用して売るのは難しい部類に入ります。売れないわけではありませんが、買い手も用途も限られ、価格は控えめになりやすい点は知っておきたいところです。用語の意味は農地転用(用語集)もあわせてご覧ください。
手続きは行政書士に依頼するのが一般的
5条の許可申請では、転用後の利用計画や資金計画、周辺農地への影響に関する資料など、多くの書類が必要です。実務では、買い手側の事業者が農地転用に慣れた行政書士へ依頼し、売主・買主が連名で申請する形が一般的です。書類がそろってからでも許可まで数か月かかることが多く、売買契約は「許可が下りることを条件とする」形で結ぶのが通例です。
転用して売るルートが見えている農地なら、宅地として見たときの価値に先に当たりを付けておくと、その後の判断が楽になります。おおよその数字が分かると、家族での話し合いや専門家への相談も具体的になります。
売る以外の道も含めて考えたい場合は、土地活用の方法を比較するもあわせてご覧ください。
農地の売却でつまずきやすいポイント
実際の買い手は建売事業者が中心になりやすい
筆者が多摩地域で扱ってきた農地・元農地の売却では、買い手は建売住宅を手がける事業者が中心でした。住宅地の中に残った、宅地より一回り大きい農地が売りに出ることが多く、区画を分けて建てる用途と相性がよいためです。場所によっては店舗用地やマンション用地として引き合いが出ることもあります。一方で、農地のまま農家に買っていただいたケースは、記憶にある限りありませんでした。3条のルートは制度としては存在するものの、市街化区域の実務では例外的というのが実感です。ただしこれは市街化区域が中心の地域での経験で、農業が盛んな地域では逆になることもあります。「資材置場の需要がある」という話も聞きますが、住宅地から離れた場所でないと金額が折り合いにくいのが実際です。
水田・高低差・広さで難易度が変わる
同じ農地でも、畑と水田では買い手の反応が変わります。水田は地盤が緩んでいることが多く、宅地として使うには乾燥や地盤改良の期間が要るといった理由から、建築を手がける事業者に敬遠されやすい傾向があります(地盤は個別に調査すべき事項です)。道路との高低差が大きい土地や傾斜地も、造成費がかかるぶん売りにくくなります。
広い農地には別の難しさがあります。市街化区域内で5,000平方メートル以上の土地を有償で譲渡する場合、原則として譲渡予定日の3週間前までに市町村へ届け出る必要があります(公有地の拡大の推進に関する法律第4条。基準は区域や自治体によって異なります)。3,000平方メートル以上の土地の形質を変更するときは、着手の30日前までに都道府県知事等への届出も求められます(土壌汚染対策法第4条)。筆者が関わった土地では、公拡法の届出をきっかけに自治体が買い取ることになった例もありました。広い農地ほど関係する法令と関係者が増え、期間も読みにくくなります。
売却後の税金には期限のある特例がある
相続した土地を売って利益が出た場合は、譲渡所得税の対象になります。相続税を納めた方には、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があり、対象になるのは相続の開始があったことを知った日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合です(出典:国税庁タックスアンサーNo.3267。2026年8月時点)。農地は買い手探しにも許可にも時間がかかるため、この期限から逆算して動き出すと安心です。適用の可否や税額の計算は個別事情で変わりますので、税理士や税務署にご確認ください。
一括査定に出す前に「農地に対応できるか」を確かめる
不動産の一括査定サービスは便利ですが、農地は専門的な知識が要るため、対応できる会社が限られます。農地法の手続きに不慣れな会社だと、話が前に進まないまま時間だけが過ぎることもあります。査定を依頼するなら、農地の売買実績や、農地転用を伴う取引の経験があるかを先に確認することをおすすめします。地元で長く農地を扱ってきた不動産会社を探すほか、農業委員会の窓口で相談先を尋ねる方法もあります。
買い手が見つからない、費用をかけてまで持ち続けたくないという場合は、貸す・国に引き取ってもらうといった道もあります。手放す方向の選択肢はいらない農地を手放す5つの方法で整理しています。
区域は調べたけれど、この農地をどう動かせばよいのか分からない、という段階でもご相談いただけます。売却を急かすことはありません。
多摩地域を中心に、相続した土地の売却相談を受け付けています。地域・物件の状況により対応できない場合があります。
まとめ:自分の農地がどちら側かを確かめることから
最後に、この記事の要点を整理します。
- 売る方法は「農地のまま売る(農地法3条の許可)」と「転用して売る(同5条の許可)」の2つ。市街化区域内の転用は農業委員会への届出で足りる
- 農地のまま売る場合、買い手は農業を続ける人に限られ、価格は宅地相場より大幅に低くなりやすい。下限面積要件は2023年4月に廃止されたが、耕作の要件は残る
- 転用して売れるかは、①市街化区域か ②農用地区域(青地)でないか ③立地基準でどの区分か、の順で確認する。青地や市街化調整区域は難しい部類に入る
- 市街化区域の実務では買い手は建売事業者が中心。水田・高低差・広さは難易度を上げる要素になりやすい(地域により異なります)
- 相続税を納めた場合の取得費加算は、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡が条件(2026年8月時点)
農地の売却は宅地よりも確認することが多く、時間もかかります。ただ、順番さえ間違えなければ進め方は複雑ではありません。まずは自治体の窓口で区域を確認することから始めてみてください。
転用して売る道が見えている農地なら、宅地として見たときの価値の目安を知っておくと、その後の相談がスムーズになります。判断を急かすものではありませんので、材料の一つとしてご覧ください。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報提供を目的としたものです。農地法・農業振興地域制度・都市計画法の運用は自治体によって異なり、制度も改正される場合があります。転用の可否や手続きは農業委員会・自治体の窓口へ、申請は行政書士へ、税金は税理士や所轄の税務署へ、相続登記は司法書士へご確認ください。


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