不動産を売るとき、最初にぶつかる関門が「媒介契約」です。
専任にするか、一般にするか。
ネットの情報は「専任がおすすめ」「いや一般のほうが得」とバラバラで、いざ契約書を前にして固まってしまう人も少なくありません。
15年間、売却の現場で多くの媒介契約を結んできた立場から本音を言うと、正解は「売主の状況によって変わる」。
この記事では、3種類の媒介契約の違いを整理したうえで、あなたの状況で選ぶべき契約を現場目線で解説します。
媒介契約とは?3種類の違いを一覧表で
媒介契約とは、売主と不動産会社の間で結ぶ「売却活動を任せる契約」のこと。大きく分けて次の3種類があります。
- 一般媒介契約
- 専任媒介契約
- 専属専任媒介契約
違いを一覧にするとこうなります。

| 項目 | 一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 |
|---|---|---|---|
| 契約できる会社数 | 複数社OK | 1社のみ | 1社のみ |
| 契約期間の上限 | 法定なし(通常3ヶ月) | 3ヶ月 | 3ヶ月 |
| レインズ登録義務 | なし(任意) | 7営業日以内 | 5営業日以内 |
| 業務報告義務 | なし(任意) | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
| 自分で見つけた買主との直接取引 | OK | OK | NG(会社を通す必要あり) |
「専属専任」は一般にはほぼ縁がない
3種類ありますが、一般の売主が専属専任を結ぶメリットはほぼありません。
自分で買主を見つけた場合(例:親戚が買いたいと言い出した)でも、仲介会社を通さないといけないので、仲介手数料が余計にかかるからです。
本記事では以降、実質的な二択となる「一般媒介」と「専任媒介」を中心に解説します。
一般媒介のメリット・デメリット
メリット:複数社に競わせられる
一般媒介の最大のメリットは、複数の不動産会社と同時に契約できること。
「うちの会社で売ります、他社には渡しません」という縛りがないため、多くの会社に買主を探してもらえます。
デメリット:誰も本気にならない
ただし、現場の本音を言うと、一般媒介はどの会社も本気を出しにくいのが実態です。
理由はシンプルで、売れても仲介手数料が入らないリスクがあるから。3社に依頼した場合、他社が先に買主を見つけたら、自分の会社の労力は1円にもなりません。
広告費をかけて宣伝しても、ポータルサイトに掲載しても、他社で決まったら全部タダ働き。そうなると、広告費をかけない判断になる会社が多くなります。
【経験談①】他社の高額査定に引っ張られて一般にしたお客様の話
これはよく見るパターンです。
あるお客様が、うちを含めて複数社から査定を取ったところ、他社がうちの査定額より数百万円高い額を提示してきた。お客様は「できるだけ高く売りたいから、複数社に一般で頼みたい」とおっしゃいました。
私もその契約を引き受けましたが、正直に言うとその時点で「売れると思って動いていませんでした」。
他社の高額査定はいわゆる「釣り査定」で、実勢価格とはかけ離れていた。一般媒介で他社も動いていて、かつ値段が市場より高い。この三重苦で、広告費をかけても回収できる見込みがない。「売れたらラッキー」くらいの感覚になってしまうのが正直なところでした。
案の定、どの会社も積極的には動かず、物件は塩漬け。3ヶ月後、お客様が価格を下げて相談してきたところから、本当の売却活動が始まりました。
この手の「高額査定に引っ張られて一般で複数社に頼む」というパターンは、一般媒介で失敗する典型例です。査定額の適正さと媒介契約の形式はセットで考えるべきです。
【関連記事】査定額の罠について詳しくはこちら
専任媒介のメリット・デメリット
メリット:責任を持ってもらえる・レインズ登録が早い
専任媒介は、1社だけに売却活動を任せる契約です。
1社しかないため、その会社は「売れたら確実に手数料が入る」とわかっています。したがって、広告費をかけ、内見対応にも力を入れ、ポータルサイトにも目立つ形で掲載してくれるインセンティブが働きます。
また、専任の場合は法律で「契約から7営業日以内にレインズ(不動産会社間の物件情報共有システム)に登録する義務」があります。レインズに載ればどの不動産会社からも買主紹介が来るので、一般よりむしろ情報の広がりが早いという側面もあります。
デメリット:囲い込みリスク
専任媒介の最大のリスクが「囲い込み」です。
囲い込みとは、売主から専任で預かった物件の情報を、他社からの買主紹介に対してわざと断り、自社の買主だけに売ろうとする行為のこと。両手取引(売主・買主両方から手数料を取る)を狙って、売主が損をしてでも自社で決めようとします。
これは売主にとって大損害です。より高く買ってくれる買主がいても、他社経由だと断られて、結果的に安く売ることになる。
【経験談②】昔は「商談中」、今は「売主都合」に変わった囲い込みの手口
囲い込みは今でも業界の闇ですが、手口は時代とともに変化しています。
私が業界に入った頃(2010年代前半)は、他社から物件問い合わせをすると「商談中です」という回答が当たり前でした。実際には商談なんか入っていなくても、問い合わせ段階で断るという露骨なやり方。他社仲介として問い合わせた物件で「今商談中で…」と言われ、数週間後に同じ価格で売れたのを見たこともあります。
2026年の法改正で囲い込みが行政処分の対象になってからは、さすがに「商談中」の一点張りは減りました。ただ、形を変えて残っています。
最近よく聞くのは、「売主都合で当面の間、内見ができません」という回答。本当に売主の事情かもしれないし、囲い込みの言い訳かもしれない。外からは見分けがつかないのがやっかいなところです。
売主としてできる防衛策は、「自分の物件がレインズに載ってから3週間経っても他社からの紹介が1件もない」という状態になっていないか確認すること。業務報告書に反響ゼロが続くようなら、担当者に直接質問してください。
【関連記事】囲い込みの法規制について詳しくはこちら
結局どれを選ぶべきか?状況別の選び方
ここまでの話を踏まえて、結論をまとめます。

「専任媒介」が合うケース
- 売り急ぎたい(住み替え、転勤、離婚協議中など期限がある)
- 平均的な物件(駅徒歩10分以内のマンション、築15年以内など)
- 自分で会社選びに時間をかけたくない ——1社に絞ってプロに任せたい
- 信頼できる担当者が見つかった ——この人なら大丈夫、と思える
売主の多くはこのケースに該当します。専任のほうが会社側のインセンティブが強く働き、結果として早く・高く売れることが多いのが現実です。
「一般媒介」が合うケース
- 時間の余裕がある(1年以上かけても良い)
- 人気エリアの物件(都心マンション、駅前一等地など、放っておいても売れる)
- 業者向け売却を検討している(買取業者に声をかけて最高値を引き出したい)
特に買取業者への売却を検討している場合は、一般媒介で複数の買取会社に声をかけて最高値を引き出すのが定石です。
デリケートな事情がある場合
- 離婚・破産・任意売却などで、近隣に売却を知られたくない
- 相続案件で、急がず複数の選択肢を並行検討したい
こうしたケースは、一般媒介のほうが合うことが多いです。専任だといわば「1社が固めて売るモード」に入り、近隣チラシ投入や目立つネット広告で周囲に知られやすくなる。一般だと各社が遠慮がちな活動になるので、静かに進められます。
ただし、いずれのケースも「静かに売りたい」「急がない」という要望を契約時に明確に伝えて、広告方針をコントロールするのが大前提です。
契約前に必ず確認すべき3つのこと
媒介契約を結ぶ前に、以下の3点は絶対に確認してください。専任でも一般でも共通です。

① 契約期間は「3ヶ月」から長くしない
媒介契約は最長でも専任・専属専任が3ヶ月と法定されています(一般は法定なしだが態例で法定なし・通常3ヶ月)。
「長くしたほうが安心ですよ」と言われても、3ヶ月で切ってください。担当会社の動きを3ヶ月でジャッジし、満足なら更新、不満なら他社に切り替え、という判断のリズムを作ることが重要です。
② レインズ登録証明書を必ず受け取る
専任・専属専任で契約した場合、レインズに登録したという証明書が発行されます。これを必ず受け取って、登録されていることを確認してください。
さらに、売主専用のログインIDで「自分の物件が本当にレインズに載っているか」を確認できる仕組みもあります。担当会社に「売主用パスワードをください」と言えば教えてもらえます。
③ 業務報告書を毎回チェックする
専任は2週間に1回、専属専任は1週間に1回、担当会社から売却活動の報告書が届きます。
「問い合わせ件数」「内見件数」「反響の内容」を毎回確認してください。数週間にわたり問い合わせ0件が続くようなら囲い込みの可能性を疑っていい。率直に担当者に聞きましょう。
まとめ:「契約の種類」より「担当者の質」
最後に本音を一つ。
15年この仕事をやってきて思うのは、媒介契約の種類よりも、担当者の質のほうが売却結果に与える影響が大きいということです。
専任で誠実な担当者に当たれば、大手でなくても最高の結果を出してくれる。一般で5社に頼んでも、全員が腰が引けていれば誰も動かない。
契約の形は、あくまで「誰に・どう任せるか」を決めるフレームにすぎません。
まずは複数社に査定を依頼し、担当者と直接話をしてみる。信頼できる人を見つけてから、この記事で紹介した判断基準で契約形式を選ぶ。その順番が、一番失敗の少ないアプローチです。
【関連記事】担当者の見極め方について詳しくはこちら


コメント